クリスマスツリーの「明日」・アンデルセン『モミの木』
まだ子供のモミの木は、ひたすら「大きくなりたい」と願っていました。
太陽の光を浴び、きれいな空気があることが、どんなに素晴らしいことか、気づかないのです。
「大きくなったモミの木が船の帆柱になって海原を進んでいくのを見たよ」
「大きくなったモミの木が、クリスマスツリーになったのを見たよ」
暖かい部屋で、きらびやかな飾り物やお菓子の箱に囲まれているのを見たと鳥たちが告げるのです。
モミの木は聞くたびに「大きくなりたい」という気持ちをますます強くします。そんなモミの木に、お日様は
「今を楽しみなさい。お前の若い日々を楽しみなさい」と言うのです。
大きくなったモミの木は、切り倒されて、やがてクリスマスのパーティーで踊る子供たちに囲まれます。
しかしそれは彼が期待したものではなかった。
クリスマスパーティーで踊り、お菓子やおもちゃのプレゼントに夢中になっている子供たちは、モミの木の気持ちに気付くことはなかったのです。
宴のあと、モミの木は暗くて寒い天井裏に運ばれ、やがてつかの間の話し相手であるネズミたちも去っていきます。
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ここまでで充分ではないかと、思う。しかしアンデルセンは筆を止めることを自分に許さない。
雪が解けて春になるころには、モミの木は屋根裏部屋から中庭に運ばれました。
それでもモミの木はまだ何かいいことが起こるかもしれないと「明日」への希望を持っています。しかし木は枯れ、あの時のクリスマスの宴の子供たちに踏みつけられ、枝はズタズタに折られてしまう。そして最後には下男によって割られて、薪たばにされて、暖炉で燃やされてしまうのです。
「ああ、おしまいだおしまいだ。楽しめるときに楽しんでおけばよかった」
この場面まで書いてなお、アンデルセンは筆を止めません。
「モミの木もおしまいになりました。そして、この話もおしまい。何もかも、おしまい、おしまい。お話というものはみんな、こうなるものですよ!」
(完訳 アンデルセン童話集2 大畑末吉訳 岩波文庫)
大きな夢を抱いて生きていっても、期待が大きいだけ現実は残酷で、最後には焼かれて灰になって「おしまい、おしまい」
アンデルセンはそう言いたかったのでしょうか?
どうすればモミの木さんが、「大きくなりたい」と生き抜いたことが無駄でなくなるのでしょうか。
物語がおわっても、アンデルセンは筆をおいたわけではなかったようです。
どうすれば、モミの木さんを救えるのでしょうか。
もしあなたが、イブの夜に、クリスマスツリーになったモミの木さんに会ったら声をかけてあげてください。
「おかげで、素敵なパーティーができたよ。大きくなってくれてありがとう!」